野村総合研究所が発表した「富裕層調査(2023年版)」によると、純金融資産1億円以上を保有する富裕層・超富裕層は、全世帯のうち約3%にあたると報告されています。
2021年の合計148.5万世帯からは11.3%の増加です。特に注目すべきは、「いつの間にか富裕層になっていた」という人が増えている点です。
こうした動きは各経済メディア等でも頻繁に取り上げられ、先日もLIMOの記事にも記載されています。
「いつの間にか富裕層」は、ここ数年の株価好調により資産運用が成功し、富裕層の仲間入りを果たした層です。主に40歳代後半から50歳代にかけての一般的な会社員に多くみられるようです。
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このトレンドは投資に対する夢が高まる一方で、数字そのものに振り回されるリスクも感じ、今回は改めてこのデータに関する僕の所感を3つの視点を綴ります。
① 富裕層の定義が緩い
この調査で定義されている「富裕層」とは、「純金融資産が1億円以上ある世帯」を指します。
ただし、ここでいう純金融資産とは、不動産や事業用資産を除いた、いわば流動性の高い資産を意味し、自宅や収益不動産を所有している人は、この定義上では含まれないのです。
この点を踏まえると、実際にはもっと多くの人が「実質的な富裕層」に該当している可能性があります。
僕自身は、実際の富裕層以上は「3%」という数字よりも多く、本来は「純資産」(=全資産から負債を差し引いた値)を基準に評価すべきだと考えています。
野村総合研究所の調査は、富裕層をターゲットにする企業向けサービスの一環でのトレンド調査でもあり、不動産などの流動性の低い資産を除外するのはやむを得ません。
いずれにしても、個人資産の全体保有額の実態とも、富裕層の定義(1億円以上)の妥当性も、少しばかりズレを感じるのが正直な印象です。
この富裕層調査についての所感は過去にも記事にしています。
② 「富裕層=FIRE可能」ではない
また、富裕層が増えているからといって、FIREも簡単に実現できるわけではありません。
FIREを成り立たせるためには、「資産の規模」以上に「生活コストの設計」が鍵になるからです。
たとえば、年間1,000万円を使う人にとっての1億円と、年間200万円で暮らす人にとっての1億円とでは、その意味はまったく異なります。
FIREを志すなら、収入の多寡よりも自分の生活構造をどう設計するかが本質になります。
とはいえ、今回の調査で浮かび上がった「いつの間にか富裕層」という現象は、無理のない生活水準とコツコツとした資産形成(たとえばインデックス投資)を続けていた人が、気づけば資産を築いていたというケースが多いようです。
これはまさにFIRE的なアプローチであり、FIREを目指す者にとっては明るい兆しといえるでしょう。
③ 数字に縛られないお金との向き合い方
資産形成をしていたり、FIREに関心がある人にとって、富裕層に関するデータに目が留まるのは自然な流れだと思います。
僕自身も貯めるフェーズでは、「いくら貯まったか」、「あといくらで目標達成か」と、数字を強く意識していました。
目標額を決めて努力することは大切で、その過程に意味があるのは間違いありません。
ただ、注意が必要なのは、その数字がいつの間にか「目的そのもの」になってしまうことです。
気づけば「お金が増えること=幸せ」という錯覚に陥いったり、肝心の自由や充実感を見失ってしまうことがあります。
だからこそFIRE後は、一度立ち止まり、「お金との向き合い方」を見直すことも大事です。
僕自身、FIRE後は「お金に囚われないこと」を優先し、投資への時間も減らしたり、お金以外の価値基準も大切にするなかで、気づけば目的は「お金を増やす(資産の最大化)→お金を使う(人生の最適化)」に変わったと思います。
そんな経緯をまとめた記事はこちらです。
「お金の好きな方、いますか?」 ←そんな質問自体が違和感でしかない
終わりに
こうした調査結果から「富裕層が増えている」というデータを見ると、人によってはFIREが現実味を帯びてきたと嬉しかったり、あるいは富裕層は程遠いと嘆いたり、なにかと感情が揺さぶられるかもしれません。
でも実際には、資産の定義や生活の設計、そしてお金に対する向き合い方で、資産の意味合いは大きく変わってきます。
それに、FIREは資産を築く旅であると同時に、「どう生きたいか」を自問する旅でもあります。
LIMOの記事はとてもフェアで良いのですが、一方で、FIREを志向する人としては、大きな数字を作ることに囚われず、自分にとっての豊かさや幸せを考え直すことも大事だと、個人的には思っています。
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