FIRE(早期リタイア)に対して「仕事から逃げる行為だ」という批判があります。
前回触れたように、これは「労働=自己実現」という価値観に基づく見方です。
ただ、それだけではありません。もう一つ批判を生みやすい背景があります。
それは、FIとREのタイミング構造を正しく理解していないことです。
働きながらも早期リタイア(RE)を目標としていたり、そのために貯蓄を増やして経済的自立(FI)を前倒しする姿勢は、一見、「仕事から逃げようとしている」と映るかもしれません。
しかし、その表層だけをみてもFIREの本質を見誤ります。
今日はこの点を整理します。
FIとREは同時とは限らない
FIREは「FI+RE」という言葉ですが、この2つは理論上、独立した概念です。
FIは「状態」(働かなくても生きていける)で、REは「行動」(働かないという選択をする)です。
従って、FIを達成してもREを選ばない人もいれば、FIの途中でREを先行させる人もいます。
この順序や発生タイミングから、主に次の5つの型が生まれます。
① FI → RE(計画的FIRE):FIを主たる目標にして取り組んみ、それを実現し、その後に早期リタイアをしたくなってFIREするパターン。
② RE → FI(リスキーFIRE):先にREを実行するがFIは不十分ゆえ経済的自立を追う。健康上や家庭(介護等)の要因などでREをするパターン等。
③ FI=RE(同時発生型):REを目標にFIを進め、FIを達成すると同時にREをする同時発生パターン。
④ FIのみ継続型:FIを達成してREもできるのに、あえてREをせず働き続けるパターン。
⑤ FIもREも目指さない型:そもそもFIもREも目指さずに生きるパターン。
FIとREを動かすのは「数字」ではなく「心理」
こうしたFIとREの順序を大きく左右するのは、貯蓄額ではなく心理状態です。
サラリーマンで、FIが未達でもREを急ぐ人は、仕事の現状に不満や疲弊が強く、「早く仕事から離れたい」という感情が先行します。
その中にはFIREの計画が甘くFIRE後に行き詰まる人もいれば、副業やパートタイムで着実にセミリタイア型で経済的自立を続け、いずれ完全リタイアに入る人もいます。
また、FIを達成してもいつまでもREに踏み切れない人は、REがもたらす「役割の喪失」や「孤立」への恐れなど、経済以外の問題を抱えていることも多いようです。
こうした多様なケースがあるなか、「FIRE=逃避」と断じてしまうのは、その背景にある心理状態やタイミングなどを無視した表層的な理解に過ぎません。
REは逃避ではなく、出口を設計する行為
また、「REを前提にFIを目指す」というのは、逃避ではなく創意的な戦略です。
例えば、「定時で帰りたいからこそ、日中に集中して働く」人がいるように、「早くFIREしたいからこそ、仕事の責任を果たし、収入を最大化してFIを加速させる」という人もいます。
このケースは自分の人生の出口を自分で設計する行為です。
人生の不確実性に対して、受け身ではなく主体的に備える行為を「逃避」と呼ぶのは的を外しています。
「逃避的RE」と「主体的RE」の境界線
ただし、REを目指すことは肯定できる要素があるとはいえ、もしその手段を誤ればそれは逃避になるのも事実です。
例えば、FIを目指して副業や投資ばかりに意識が向き、仕事の責任を放棄したり、義務を軽視したりは「逃げ」となります。
仕事が嫌でREを志す人が仕事にモチベーションを維持することは困難かもしれませんが、それでも課された責任を果たし、求められる成果を淡々と出せば、精神的には「静かなる退職」でも、それは逃げではありません。
やはり、業務において他者に迷惑をかけたり足を引っ張る行動を取ることが、逃避に該当します。

