1億円の金融資産を作ってFIREした元会社員が「持家か賃貸か」について独自の見解を述べた記事がありました。
結論としては「賃貸」という選択です。
その理由を読むと共感できる点も多くあるのですが、1億円の資産を保有したうえでの判断としては、少し違った見方もあるかもしれないと感じたので、今日はその視点を綴ってみたいと思います。
記事の概要
当記事は、1億円を貯めてFIREした寺澤伸洋氏による見解で、夫婦で話し合ったうえで「家を買うことは資産形成や人生設計にあまり良い影響を及ぼさない」と判断し、賃貸を選んでいるとのことです。
その理由として、
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必要な家の広さや部屋数は変化する
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家を買うとその場所に縛られる
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35年後のことは誰にも分からない
といった、自由度・流動性・将来の不確実性という3つの観点を挙げられています。
35年ローンで「購入」か、家賃を払い続けて「賃貸」か…1億円貯めて〈FIRE〉した元会社員の「最終結論」
たしかに現代的なライフスタイルを反映した合理的な発想に思えます。
ただ、1億円という金融資産を背景にした選択として考えると、もう少し「資産としての住宅の可能性」や「インフレリスクへの対処」、「資産分散」も含めた多面的な視点もありえると感じました。
個別にみていきます。
自由度の問題
寺澤氏の見解では、
家を購入しようとすると、現在のライフステージにかかわらず、「将来部屋数が最も多く必要になる時期」にあわせた大きさの家を検討してしまいがちです。しかし、ずっと4LDKの部屋に住むのではなく、2DKでいいときは2DKに住んでおき、3LDK、4LDKが必要になったらそのときに住居を変える。
とのことです。
確かに、「家族構成の変化に応じて適正サイズの住居に住み替える」という主張は、生涯の居住支出の最適化やライフスタイルの変化などの面で合理的です。
ですが、「家賃という支出を生涯払い続ける総額リスク」や「住宅が資産となり得ることの価値」がという重要な判断軸が触れられていません。
また、住宅を「資産」として保有しても一定の自由度は確保できます。
たとえば、持家を賃貸に出すことや、売却によって資金を流動化する選択肢も現実的ですし、都心部などであれば資産価値が極端に下がるケースも限定的です。
流動性の問題
そして2点目が流動性です。
家を買うとその場所から動きにくくなります。人生の岐路において、最も選びたい選択肢が住居の移動を伴うものだったとしましょう。しかし、持ち家があるからという理由でその一番魅力的な選択肢を選ばない、もしかしたら選べないということだって十分に考えられるのです。
とのことです。
確かに「持家だと住む場所の自由が失われる」との指摘も一理ありますが、前述の通り、持家を賃貸に出す、売却するといった方法も現実的にあります。
特に住宅市場が安定している地域(前提となっている東京や大阪などの首都圏)であれば資産の売買流動性も賃貸需要も高いです。
自由が失われるという表面的で一次的なリスクは、賃貸転用や売却という実需をもってヘッジできるので、「家を持つと動けない」という思い込みが本当に適応されるか、個別ケースで冷静に問い直す意味はあります。
なお、家族がいて子供が成年近いライフステージでは、そのサイズに合わせるとオーバースペックな物件となり得るので、筆者はタイミング的には判断が難しい状況ですし、購入を見送る判断は合理的だと思います。
将来の不確実性の問題
そして3点目が将来の不確実性です。
家を持つと修繕積立金や固定資産税など、今まで不要だったお金が追加で発生します。特に修繕積立金は、家が新しい間はそう高くないかもしれませんが、年数が経つにつれてどんどん上がっていく可能性もあります。
こうした持家にかかる各種費用を懸念する声はよく聞かれますが、これらは賃貸物件の家賃にも当然織り込まれており、更にオーナーの利益も積まれています。
多くの人にとって退職後の年金暮らしになってもまだローンを支払うことになります。さらに、35年間にそれだけの金額を払い続けられる保証もありません。
これも同じで、賃貸だって一生家賃を支払い続けることになり、収入が減った後も固定費が下がらないという別のリスクを抱えます。
一方で住宅ローンは、むしろ長期的にはローン返済が終わることで「住居費が減る」という安心感も得られます。
持家は資産として本当に危険か?
結局、持家か賃貸かも、その持家の資産価値がどうなるか、その「不確実性(変動リスク)」が大きなインパクトとなっています。
でもそれは株式その他の金融資産も根本は同じで、「どんな資産にも下落リスクはある」といえます。
なので、リスクを怖がるよりどう備えるかが大切です。
個人的には、持家は金融商品とみたてても魅力的です(場所やタイプによるが)。
住宅ローンは少ない自己資金で大きな資産を持てる(金融機関が貸してくれる)レバレッジを活かせますし、株式の信用取引のように強制ロスカットもなく、賃貸転用もきちんと相談すれば認められるケースが多いのが現実です。
仮に300万円の頭金で5000万円の自宅を買えば、毎月十数万を家賃ではなくローンとして返済することで、満期で資産が手元に残る「積立投資」と同じ仕組みとも言えます。
保有資産のうち、金融資産が少なくて不動産が大きいと、そのアンバランスさがリスクになりますが、結局、資産を増やそうと思えば、どこで、何のリスクを取るか次第です。
経済成長があるから株を買っても安心と思うなら、地価上昇があるなら土地比率の高い物件を買っても安心という理屈もあるわけです。
そのリスクを受け入れられる限り、不動産を資産に組み込むのは有効だと思います。
終わりに
1億円の資産を築かれた方であれば、住宅ローンを活用した資産分散、またご家族がいるので生命保険の代わりとしても、インフレへの備えという観点でも、検討に値すると思います。
持家だって資産の一部として捉えるべきで、いずれ自分が売るか、相続後に子供が売るか、売り時は必ず来ます。売るときにはなるべく高く売りたいですし、資産価値を無視して物件購入することこそ危険だと思っています。
結局、「持家vs賃貸」と比較するより、意思決定の順番として、持家を資産とみたて「自分に資産配分やリスクバランスの取り方で資産を保有するか否か」を検討判断し、それがNG判断ならば賃貸を選ぶ(そのかわり支払額はコストとして割り切る)という方が経済合理性があると思います。
結局、何が自分に得と感じるか・・だけの話で、リスクを取らず賃貸の自由度を選んで暮らすのも選択肢の1つなわけで、持家vs賃貸に「絶対的な正解」はなく、どこに自分が落ち着くかの着地点でしかありません。
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