FIRE(経済的自立による早期リタイア)を目指す際、多くの人が参考にするのが「4%ルール」や「年間生活費の25倍」といった指標です。
たとえば年間生活費が300万円であれば、その25倍=7,500万円を確保し、それを年利4%で運用して暮らすという考え方です。
とてもシンプルでわかりやすいモデルですが、それだけでは「本当に必要な額」は見えてこないというのが、FIRE生活を送る中での実感です。
このモデルは「今の生活費」という現状をベースに、将来のFIRE資金を足し算的に計算するものです。
しかし、実際に必要なのは「どんな生き方をするか」から逆算する演繹的な視点です。
今日はこのFIRE達成ルールについて、僕の経験から思うところを綴ってみます。
FIRE所要額の現実的な内訳
FIRE生活を実際に送ってみて痛感するのは、先のルールで導かれる「運用するお金」だけでは不十分だということです。
結論として、FIRE所要額は以下の3つの要素から構成されると考えています:
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資産運用額:生活費をまかなうための投資資産
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生活防衛資金:医療・修繕・災害など予測不能な支出に備える資金
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自由投資予算:刺激的な生活を維持するための“遊び”の資金
この3要素を反映したFIRE所要額の式は、次のようになります。
FIRE所要額=(資産運用額 ÷ 毀損許容率)+ 生活防衛資金 + 自由投資予算
この構成を少し補足説明します。
毀損許容率とは~安心のために
資産が減っても心が揺れないラインで金額設計をすることは、FIRE生活における「精神的な自由」を守るカギです。
経済的自由を達成しても、投資資産の増減に一喜一憂していては、心は解放されません。
僕の場合、「運用資産が3割減っても平気だ」と感じられるラインを大切にしており、毀損許容率は毀損許容率は0.7(=70%)としています。
たとえば、年間生活費300万円を賄うには、ざっくり7,000万円の投資資産が必要です。
この7,000万円が「毀損後」の最低ラインだとすれば、毀損前には
7,000万円 ÷ 0.7 = 1億円
が必要になるという前提です。
以前の資産毀損に関するシュミレーションです。
資産アロケーションの調整
ただし、実際の市況が恐慌レベルになれば、「3割減で済む」ことは非現実的です。
それゆえ、このラインを保つには、株式に加えて安全資産(債券等)を組み合わせたアロケーションの工夫が必要です。
つまり、資産全体のリスクを抑える必要があるということです。
この場合、全体の利回りは当然下がり、4%ではなく、2.5%程度に落ち着くかもしれません。
すると、300万円の生活費を得るためには
1.2億円(300万円÷0.025)
という逆算になります。
このように、「安心のため」に利回りを妥協すれば、FIRE所要額は理論上どんどん膨らむことになります。
生活防衛資金と余剰資金
また、FIRE生活を送るなかで、資産運用以外に2つのコストがでます。
生活防衛資金
生活を送る中で突発的に必要な資金(医療、修繕、災害などへの支出)や、ライフプラン上のイベント費用(家電や車の買い替え、修繕費等)があります。
これは資産運用とは別に「生活防衛資金」として確保しなければいけません。
余剰資金(自由投資予算)
FIRE生活でどれだけ好きなことをしていてもやがて“慣れ”が生まれます。刺激が減り、退屈さ(暇ではないが満足しない感覚)が出てくるのです。
この刺激不足への対処コストとして、僕は「自由投資予算」を用意しています。これは「自分がやりたいことに突っ込むお金」で、全損してもOKといった「実験的な資金」であり「余剰資金」と言えます。
こうして求まる、僕なりのFIRE所要額
このような視点をすべて取り入れてFIRE所要額を計算するなら、式は次の通りです。
FIRE所要費 = (資産運用額÷毀損許容率0.7)+(生活防衛資金)+(自由投資予算)
たとえば、
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運用資産として1.2億円(2.5%利回りで年300万円)
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生活防衛資金:1,000万円
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自由投資予算:1,000万円
とした場合、
合計:1.2億+1,000万円+1,000万円=1.4億円
なお、資産の中で流動性の高い部分を防衛資金に充てることも可能なので、このケースでは、実際には1.3億円程度でも成立するかもしれません。
終わりに~自分仕様のFIRE算出
このように、精神的な安心と人生の遊び心を加味したFIRE設計は、従来の4%ルールからかけ離れていきます。
僕が伝えたいのは、FIRE所要額は大きいという意味ではなく、
「機械的にFIRE達成ルールの4%を使って人生設計をして、本当に大丈夫なのか?」
と考えることです。
その結果、「最低限暮らせればOK」と25倍ルールで実行するのもいいですし、「安心」や「遊びの余白」まで含めた設計もまた、1つのFIRE実現の方法です。
実際、僕自身もFIRE前にこの計算をしていたわけではなく、生活の中で自然とたどり着いたFIRE所要額の構造ですし、こうしたことはセミリタイアをしながら資産を増やして調整するやり方もあるのかもしれません。
いずれにしても、FIRE所要額は、“機械的な計算”ではなく“生きた計算”だと捉え、対処することが大事だと思います。
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