「資産1億円で老後破産?」というFIRE事例に仕立てた“作り話”と思える記事がThe Gold Onlineから出ました。
それは、「資産1億円があっても、人生設計に計画性がないと、早期リタイアで破綻する」というメッセージです。
今日は、その記事の矛盾も指摘しながら、テーマから学べる事を綴ります。
資産1億円を「使い切る」と決めた男のその後
記事では、鈴木さん(仮名、60歳男性)が、退職金や相続で1億円を手にし、早期退職をして豪遊生活を始めたとされます。
これまでの人生、趣味もなく、ただひたすらに働き続けていましたが、60歳という節目を迎えるにあたって考えるようになりました。「もう全部使い切らなきゃ損だろう」――こうして、鈴木さんは60歳で仕事を辞め、老後を心ゆくまで楽しむ決意を固めました。
働きづくめの人生を振り返り、「豊かな老後を過ごしたい」というのは、ごく普通にありうる感覚です。
古くなったマンションのフルリフォームをし、豪華な内装に一新。高級家具を一式揃え、最新の家電に入れ替えました。次に目をつけたのは、憧れだった高級外車。鈴木さんの金銭感覚は、そこから狂い始めました。外食時に1万円超えるディナーをすることも珍しくなくなり、高級スーパーでの買い物も日常的に。
これが老後破綻の転落人生として描かれたストーリーです。
こうしたすべてが鈴木さんの手に入れた「成功の証」。使いたい時に使いたいものを手に入れ、人生を楽しむ日々が続きました。
どうやら根底に成功の証としての消費欲があるようです。
その結果、資産は激減し、67歳になる頃には貯蓄が数百万円まで減少したそうです。
金は使ってナンボだろ!…「金融資産1億円」で早期退職した60歳元会社員、豪華リフォーム・外車・グルメ三昧の果て、わずか7年で“破産寸前へ転落”の末路
矛盾点:この話、本当に成立するのか?
一見、FIREの失敗例として教訓的な記事ですが、内容には信憑性に疑問の残る矛盾があります。
年金受給の矛盾
まず、年金受給の年齢です。
2025年現在、日本では「年金の支給開始年齢」は原則65歳ですが、昭和30年代前半生まれ(現在の60代後半世代)であれば、報酬比例部分の支給は63〜64歳から始まっている可能性があります。
記事では「収入ゼロで5年間過ごした」とあり、完全に無収入で65歳まで過ごすことは実際には想定しづらい年齢層です。
節約志向の矛盾
また、1億円を築いた背景にも矛盾があります。
仮に退職金や相続があったとしても、長年の節約志向でなければ1億円を貯蓄するのは難しいでしょう。
ところが記事では、早期リタイア後、急に散財志向に転じ、金銭感覚が狂ったとされております。
「それまでどのような価値観でお金を貯蓄管理してきたのか」が不自然です。
月100万を使えるか?
それに贅沢に使った金額はせいぜい3,000万円でしょう。外車購入で1,000万円、リフォーム費等で2,000万円です。
すると、残り7,000万円を5~7年で使うということは、月100万円ほどの家計支出となります。
*マンションをリフォームするということは自己所有です。幾らリフォームにお金をかけても外壁無しの内装だけなら2000万円といったところです。
*家賃のかからない生活費として月100万を60~67歳で使い続ける食欲や行動力が、いったいどこからくるのか、不思議です。
こうした点を踏まえると、「典型的な老後破産パターン」として読者の不安を煽る構成にも見え、フィクション性が高いと思えます。
留意点
このような事例を読むときには、事実としての整合性に加えて、「本人の意思決定がどこにあったのか」という観点(動機)が大切です。
この記事での消費欲は「成功の証」です。
主人公は、「これまでの人生、趣味もなく、ただひたすらに働き続けた」とのことです。
本来、人が働いている60歳以降、鈴木さんは働かずに過ごせている(働かない選択ができている)ので、こうしたストレスなく穏やかな時間を持てることをもって「成功の証」と感じるほうが自然です。
なぜか「消費しないと成功を感じない」なんて、高ストレス下の頑張る現役世代感覚に鈴木さんがリタイア後に陥るのは、人間心理や行動学的に不思議です。
終わりに
さすがにフィクション性が高い内容とはいえ、大きな矛盾を随所に感じます。
主人公の年齢設定は老齢期で、ずっと節約人生を送っていながら、早期リタイア後、その欲望レベルは「消費を我慢した若い人が、大金を手にし、突然爆発するかのレベル」になっています。
そこから「とてもファンキーな鈴木さん」(↓こんなイメージ)を想像してしまい、クスッとなる、微笑ましい記事でした(笑)。
↓