自己破産で無一文になり、80歳過ぎでビジネスで大稼ぎをした父。
進行性の癌が見つかり、余命僅かとなった父に僕が向き合うストーリ（実話）の第３話目で最終編です。
１話目（下）からお読みくださるとより理解できます。
父の生前中に僕がやること
肝臓がんを患った父の余命は数か月。
その間、僕がやるべきことは、父の「安らかに旅立つおぜん立て」と、家族の「遺産相続などの問題対処」です。
遺産相続の問題とはその「不透明さ」にあります。
昭和時代の猛烈サラリーマンの「オレオレ気質」と「超自分勝手」を掛け算した人物。
そんな本人は、母に資産を明かさず自分で好きに使い続け、借金まみれもひた隠し。愛人問題やギャンブル気質とてんこ盛り。
僕は一時帰国中、いろいろ核心に踏み込むもブロックされていました。
まあ、顧問税理士がいるので金銭面は何とかなるでしょう。
どうせ、僕は、欲まみれの人物の遺産相続は放棄しようと思っているからです。
ただ、母と姪っ子の相続に問題が出るのは困りものです。
父の生きざま、いろいろ質問してみた
そんな日々、僕はなるべく父のことを理解しようといろいろ質問をぶつけました。
父の子供の頃は終戦間近でした。
田舎で生活中、米国の戦闘機が機銃を打ちながら追いかけてきて、川の橋げたに逃げ込み死にそうになったこと。
終戦前、敗戦はわかっていても誰も口にできない雰囲気があるのを子供ながら感じ取っていたこと。
ほか、
お寺で過ごす幼少期の楽しみや遊び。サラリーマン時代の苦労話。なぜ会社を辞めて起業したか・・・。
そんな家族らしい時間を過ごすことができ、僕は勤務先の欧州に戻りました。
家を出るとき「じゃあ、また。」と言って振り向いたら、父は後姿のまま、手を挙げて挨拶をしていました。
それが最後の姿でした。
父の死
ほどなくしてその日は来ました。
肝臓がんの抑制で、あえて「血液をさらさらにする薬」を飲まずにいたので、血液の塊が脳にまわってしまいました。
脳梗塞で緊急入院です。
その後、病院から僕のLINEに電話がつながったときは死ぬ瞬間です。
コロナ禍で立ち会えず、看取れず、声もかけられず、あっけない最後です。
でも、弟の死のような締め付けられる思いは一切なく、涙一つ流れない自分がいました。
父のことを嫌いではないとは思います。
でも、悲しくなれないのです。
遺産相続の懸念
帰国した僕は、税理士先生と面会し、一気に状況整理を進めました。
僕は相続を放棄し、法定相続人として「母と姪っ子」を想定しました。
＊弟は亡くなっているので未成年の姪っ子が代襲相続です。
なお、税理士先生は父のビジネス関連のお金の流れは把握しています。
ただ、父は「自分の都合の悪いこと」は言わないはずで、「借金」「連帯保証人」があってもそれをひた隠しするはずです。
相続後は、たとえ借金や連帯保証が出ても、それは相続した人が返済義務を負います。
それゆえ特に「愛人との金の貸し借り」が心配でした。
そして最悪な事に、愛人の通帳が父のカバンから出てきました。
しかも1000万円単位のお金の動きがあります。
愛人はやや痴呆症があるのか、病院の診察券も出てきました。
「まさか横領していないだろうな！！」
そんな不安などがあり、父の携帯メールを片っ端から徹夜で読み込みました。
遺産相続の判断期限
こうした懸念を税理士先生と共有しながら、全てを露わにしていきました。
お金のこと。父の人間関係。そして父の生きる目的。
お金の使い方も、誰と付き合うかも、結局、何を目的に生きているか次第です。
僕は、父の生き方そのものにも注意し、金銭面や人間関係を追っていきました。
相続放棄を申請できる期限は「死後３か月」です。
遺産相続の結論
そして・・・。
僕は刑事かのように、矛盾や不自然さなど、あれこれ探りました。
でも、父の愛人のメールは不審点はなく「ほんわか日常」です。
愛人の通帳やお金の流れは、実は、身寄りのない愛人の生活の一助でした。
父は税理士先生のサポートをうけ、愛人の名義で愛人の資金を証券会社に送金し資産運用をさせていたようです。
ということを税理士先生も認識していてホッとしました。
でも疑い深い僕は徹底的に矛盾を探しました。
税理士先生に聞いても「お父様はいつも〇〇様との面会で奢っていましたよ」など、愛人を金ずるにする形跡はありません。
最終的に、相続期限が来て、未成年の姪もいる相続諸事情もあり、僕も相続に入ました。
そして自分の別口座で「腐ったお金」を受けとりました。
父の遺産処理
そして遺産処理を始めました。
母とも相談し、僕は母と一緒に、父が生前に借金をした親戚に借金返済に行きました。
戻らないと思っていたお金が、10年以上の時を経て返ることで、叔父さんは驚いていました。
母が叔父さんに向かって「父が生前から気にしていたもので、返済に来ました。利息も上乗せできずにすみません」と言いました。
叔父さんは深くお辞儀をしながら受取りました。
でも僕は思ったのです。
「父が返済を気にしていた？」「あれ、母親は父を庇うのか？」と。
嫌っていても慕う。二人には僕に見えないものがあるのか。。。
いずれにしても、母は親戚への負目という「心の呪縛」が取れ、ものすごくすっきりした表情をしていました。
こうして「父が残したお金が母親の精神を解放する手助けをするのか」と、思ったのです。
父の「欲にまみれた生き方」と向き合って
父のお金をどう処理するか考えながら、死後の父にも向き合います。
最後まで止まなかった「人間の欲」をみて、正直、僕は最近まで怖かったのです。
怖いというのは、父の欲が恐ろしいということではありません。
ではなく、「果たして自分は、父のように、正直に生きてきたのか？」という、僕自身の生き方に疑問をもったからです。
思い返せば、自分だって会社員時代は欲がありました。
出世欲、財欲、成功欲、・・。
でもいつしか、出世競争で同期に先を越され「出世しなくても結果さえ出せる実力があれば良い」と自分をごまかし・・。
財産も「世の中、お金が全てじゃない」と言って投資する勇気の無さを正当化し欲にブレーキをかける・・・。
そんな「綺麗ごと」で、自分の人生を誤魔化し続けてきたのでは・・。
と、父の生きざまから思い知るのです。
今の僕のアーリーリタイアライフ
記事のタイトルに「秘話」を入れたのも、実は、「自分の弱さを隠していたかも」の意味からです。
父が嫌だけど羨ましかったのかもしれません。
度を越した行動や性格の悪さは論外ですが、父の根は、慈悲深さ、人間臭さがあるのです。
僕は大人になるごとに父の欲が見えてきて嫌いになったけど、根の部分はそうじゃ無いのでしょう。
金で繋がった人間関係とおぼしき友人から「お父さんにお世話になった。お墓に行きたい。」と連絡も来ました。税理士先生も「父にはお世話になった」と何度も言います。
お金や契約のつながり以上の「何か」を残していたのかもしれません。
僕だって父は、小学生の頃、大好きでした。
僕が興味を持つものを熱心に聞いてくれて、そしてサポートしてくれた父でした。
野球が好きでキャッチボールをしてくれたり、UFO好きでいろいろ図鑑や本を買ってきてくれたり、星が好きで望遠鏡を買ってくれたり、中学生の頃、物珍しい関数計算機を買ってくれたり。
僕のアーリーリタイア生活で父の思いを昇華する
今の僕は、中途半端な欲望のサラリーマンを辞め、なんだかんだ呑気ながら本気で「自由とは？」を考えています。
まだアーリーリタイア２年生ですが、できるならば、
・「お金に囚われない」という本当の「経済的自由」の状態をどう得るか
・Well-BeingとHappinessという幸せにあふれた「時間的自由」をどう実現するか。
・文化や自然など日本や地球も捨てたもんじゃないとの感動体験をする（ベストタイミングにベストな場所にいる）「地理的自由」をどう実行するか。
そんな自由を探究する日々のなか、この「欲深く生きた父の目的はなんだった？」も、ずっと考え続けていました。
父の残したスマホのメールを、アーリーリタイアした今の僕が、改めて読み直し、全てを考え直したら、ようやく見えてきたのです。
父の「欲の向こうにあるもの」は「自由に正直に生きること」でした。
そして僕もアーリーリタイアの先にあるものが「自由に生きること」です。
ただ僕は「正直に生きる」ができるかは、まだわかりません。
これからの人生を「自分らしく生きれるか」次第です。
*くれぐれも性格悪い自由な生き方はしませんが (^-^)
では、遺産相続金の昇華は？
ということで、借金も返済し、少し残ってる父のお金はどう処理すべきかを考えました。
①ハワイ旅行
年齢的、体力的には海外旅行が最後となる母親と、そして姪っ子たちを連れていき、母親に家族最高の最後の思い出を作る
→みんなには「相続金から旅行代を出せと、じいじから生前言われている」という名目で。
→いずれ天国で父に会ったら「貴様、そんなこと言ってない」と笑いながら怒られるかもしれませんが・・まあ、いいでしょう。
②四国霊場８８か所巡礼を完成させる
→父が四国霊場８８か所の納経帳や掛け軸が中途半端（半数ほど終了）にしています
→先立つであろう母のお棺にこれを入れて天国にもっていってもらい、父がやりきれなかった「残りの思い」を長男が片付けたと母からの手土産です。
こんな２つが、実は僕の2023年の残りの大きなプロジェクトです。
両方ともあえて、父の遺産相続金を使います。
父の欲にまみれた遺産相続金を、僕の思いで包んで、天国にいる父に全額返金します。
それが僕から父への恩返しであり、僕にとっての「自由の貫き方」になるからです。
そして最後にこの場を借りて。
「オヤジ、いろいろありがとう。」
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