SNSやビジネスメディアで時折見かける「富裕層はアーリーリタイアなんて考えない」、「一生働き続けるのが真の成功者だ」という主張があります。
先日、こうしたFIRE批判の発信源の一つが、富裕層を顧客に持つ税理士であることを知りました。
その記事では、次のように述べられています。
筆者がこれまで見てきた富裕層は、半ば悠々自適の生活を送っていても、決してビジネスから引退しているわけではありません。むしろ、富裕層は、早期リタイアをほとんどしていません。常に変化し続けている世界に目を向け、いつでも新事業を始められるマインドを持っています。
「資産数億円」でもアーリーリタイアを選ばない富裕層…成功が続く人に共通する行動【富裕層専門税理士が解説】
今日は、この主張の裏にある「ポジショントーク」と、そこから生じる構造的なズレについて綴ります。
誰が誰に向けて語っているのか
まず注目すべきは、この主張は「富裕層向けの税理士」である点です。
彼のクライアントの多くは、一代で会社を築いた起業家や、代々の資産を守る同族経営者でしょう。
こうしたオーナー経営者にとって、収入源は労働力ではなく、自らが所有する法人や事業スキームにあります。
法人は一度構築すれば、本人が現場を離れても役員報酬や配当を生み続けます。妻や子供を役員登録し何世代に渡って事業を継承していくので、仕事と人生は不可分となります。
現に記事において
半ば悠々自適の生活を送っていても、決してビジネスから引退しているわけではありません。これを、労働力を切り売りするサラリーマンの「リタイア=労働の停止」と同列に語ることには、前提の違いがあります。
というか、そもそもこれは「セミリタイア」だとも言えます・・。
「使命感」という名の終われないゲームの正当化
記事では次のようにも語られています。
失われることのない好奇心。さらには「儲かりそうだから」以上に「自分がワクワクするから」「世の中の人に使ってもらいたいから」「社会のために」という情熱や使命感が、圧倒的な成功を導いています。この因果関係には違和感があります。
「好奇心が富裕層を生む」のか「富裕層だから好奇心を語れるのか」・・その順序は明確ではありません。
それでも税理士が「使命感」を強調する背景には、
・自身の顧客という限定された世界を見た結果(現状認識バイアス)、
・孤独になりがちなオーナー経営者のプライドを肯定したい意図、
と感じます。
特に、オーナー経営者が生まれながら親から事業承継したら、それを資産防衛する運命を生涯受け入れる・・サラリーマンのように「辞める」という出口すらないエンドレスゲームだから孤独です。
同時に、税理士の立場からはずっと現役で法人を維持してもらう方が顧問料としてのビジネスにも合理的であり、そんなクライアントの誇りを守り、自らの商売も守るポジショントークとは伺えます。
サラリーマンとオーナー経営者の混同
僕が最も危惧するのは、この富裕層の論理をサラリーマンが真に受けてしまうことです。
サラリーマンにとっての「働く」は、時間を切り売りするフローの活動です。
一方、富裕層にとっての「働く」は、構築したストックを管理する行為です。
この違いを無視して「出口戦略を考えるな」、「一生働け」という精神論だけを受け取ってしまうと、サラリーマンは労働力を資本家に提供し続ける側に固定されてしまいます。
終わりに
富裕層がリタイアしないのは、人格の問題ではなく、リタイアする必要のない仕組みを持っているケースも多々あります。
そうしたオーナー経営者とサラリーマンは属性が違いますし、サラリーマンがアーリーリタイアを選ぶ決断が記事で言われる「小さな発想」でもないと思います。
「富裕層のマインドセット」としては同意できる記事ですが、サラリーマンとしてはその美談に踊らされることなく、自分にとっての主導権を取り戻す「上がり(リタイア)」を冷静に見極めるべきだと思います。
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